使い込み事案で「カルテ」が重要なわけ
使い込み事案とカルテ
遺産を相続人の一人に使い込まれたという相談をよく受けます。たいていは、正確には遺産というより遺産になるはずだった資産を被相続人の生前に推定相続人であった親族の一人に使われてしまった、という話です。この場合、被相続人が健在の時期に被相続人に無断で使われたのであれば、その特定の親族が法律上の根拠なく利益を得た、すなわち不当利得を得たとして、返還を求めるという法律構成が考えられ、不当利得返還請求ということになります。また、不法にお金を使ったとして損害賠償請求という法律構成もあり得ます。
いずれの構成をとるにせよ、このような事案では、一般に、被相続人の「カルテ」が重要です。
カルテとは
カルテとは、医師が診療の記録を記載した書面のことです。診療記録とも呼ばれます。これは医師が書いた治療の記録で、診断書とは異なります。診断書は症状についての診断を記載した書面ですが、カルテは治療内容や医師と患者のやり取りなどが比較的自由に書かれています。また、診断書は何か理由がないと作成されませんが(患者から求められた、交通事故の自賠責から支払いを受ける、など)、カルテは医師が治療をすればその都度作成されます。
カルテが重要な理由
カルテには、患者の治療の経緯、症状、などが記載されていて、かつ、診療のたびに何らかの記載がされるため、被相続人の健康状態を時系列で知ることができます。もし、カルテから、被相続人が、資金が引き出された時点で判断力を失っていたことが明らかになれば、資金の引き出しは被相続人の意思によるものではないことが推認できるでしょう。
もちろん、本人の意思ではなかったということから、直ちに、ある特定の相続人が引き出したということを言えるとは限りません。それを立証するためには、例えば、その相続人が通帳と印鑑を管理していた、など預貯金を引き出しやすい状況にあったこと、さらには、その引き出されたお金が当該相続人に流れたこと、を示す必要があります。
とはいえ、まずは被相続人の意思によるものではないことを示す必要があり、そのためにカルテの記載は重要です。カルテは、医師によるいわば生の記載であり、例えば介護認定などのように価値判断が入ったものではないので、証拠としての力は強いです。
カルテの取り寄せ方
カルテは被相続人がかかっていた医療機関にあるはずなので、直接請求してください。ただし、保管期間を過ぎると廃棄される場合があるので、早めに行動することが重要です。
被相続人の意思によるものではないことを示さなくてはいけない理由
被相続人の意思によるとしてもお金が流れたことは同じ、と思うかもしれません。しかし、被相続人の意思による場合は贈与であり、不当利得や不法行為にはなりません。その場合は、遺産分割の中で特別受益という主張をすることができる場合もありますが、要件も効果も異なります。
それゆえ、被相続人の意思によるか否かは重要なのです。