【コラム】相続人の中に認知症で判断力がない人がいた場合
遺産分割には全員の合意が必要
相続人の中に認知症で判断力がない人がいた場合、どうすればよいでしょうか?
遺産分割は相続人全員の合意がないと行えないので、そのままでは進めることができません。
成年後見
判断力がない人がいる場合、成年後見人を付けることが考えられます。成年後見人は精神上の障害により事理弁識能力がない常況にある場合に、親族などの申し立てにより選任されます(民法7条)。申し立てが可能な親族が4親等内に限られますが、たいていは相続人どうしはその範囲に収まるので他の相続人が申し立てることもできます。
成年後見人が選任されれば、成年後見人が本人の代わりに遺産分割協議をすることができます。
成年後見制度を利用する場合の問題点
成年後見制度の利用ですが、問題点もあります。まず、遺産分割に関しては、成年後見人は本人のために行動することとなっていますので、法定相続分を下回る遺産分割は基本的にできないと考えられています。それによって、遺産分割を柔軟に進めることが難しいという問題があります。
また、成年後見制度はもともと事理弁識能力を失った者を保護するための制度です。それゆえ、その状況が変わらない限り、後見開始開始の審判が取り消されることはありません。つまり、一度後見人を付けたら、付いたままということになります。これ自体は被後見人にとって望ましいことではありますが、一方、問題もあります。一つは、弁護士や司法書士などの職業後見人(専門職後見人)の場合、毎月報酬が発生するということです。相場は月3万円程度だと言われていますが、家庭裁判所が決定します。これは被後見人の資産から支払われることになもう一点は、親族が後見人をする場合は、毎月家庭裁判所に対して報告をするなどの業務が負担になるということです。それゆえ、親族の中でだれも後見人を引き受けたがらないということもあり、そうすると、結局、申し立ての際には後見人候補者については記載せずに申し立てることになります。その場合は、家庭裁判所が名簿の中から選ぶことになり、職業後見人(専門職後見人)が付くことになります。
まとめ
このように、相続人の中に判断力を失っている人がいても遺産分割協議は可能ですが、そのためには成年後見制度の利用が必要となる場合があります。しかし、成年後見は一度開始の審判がなされれば、被相続人が事理弁識能力を回復しない限りは、後見人が付いたままとなります。その間、専門職後見人だと報酬が必要であり、また、親族が後見人となる場合には後見業務について家裁への報告を自分でやらないといけないため負担が重くなります。そのような問題点も考えて、成年後見制度を利用するかどうかを検討する必要があります。