具体的相続分を決める手順
法定相続分について
遺産分割においては、法定相続分というものが定められています。これは各相続人の権利を定めたものであり、合意の上でこれと異なる割合で分けることはかまいませんが、合意に至らなかった場合には、裁判所は法定相続分を元に具体的相続分を計算して判断することになります。
(後述するように、法定相続分に、寄与分、特別受益を加味して具体的相続分を決めることとなります)
法定相続分についての定めとしては、民法900条が挙げられます。すなわち、
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。」
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
と定めています。ここで、「同順位」というのは、法定相続人にも順位があり、第1順の相続人がいれば第2順位の相続人は相続人にならず、第1順位か第2順位の相続人がいれば第3順位の相続人は相続人にならないという、相続の優先順位のことです。(配偶者はいずれの場合も相続人になります)
すなわち、887条で被相続人の子が第1順位の相続人であることが定められており、さらに、889条が第1順位の相続人がいない場合について定めています。すなわち、889条1項は1号で直系尊属が相続人になること(親等が被相続人に近いほうが優先されること)、2号で兄弟姉妹が相続人になること、を定めています。ここで直系尊属が第2順位、兄弟姉妹が第3順位です。
民法900条の話に戻ると、1号は子と配偶者が相続人である場合は配偶者が半分、残りを子らで均等に分けることを定めています。2号は、直系尊属と配偶者の場合は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1となること、3号は、兄弟姉妹と配偶者の場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1、となること、を定めています。
このような定めになっているのは、配偶者は被相続人との生活上の結びつきが強く遺産による生活保障に必要性があり、また、遺産の形成に貢献しているのが一般的であるので、常に相続人になることとしつつ、被相続人の子も同様に生活上の結びつきが強く遺産形成にも貢献していることが多いので、配偶者と子は半分ずつと定めたのであると考えられます。その点、直系尊属(被相続人の父母など)は上記の理がそれほど強く当てはまるわけではなく、ましてや兄弟姉妹の場合はなおさら被相続人との距離があるのが一般的なので、相続させる必要性が強くはないため、配偶者の相続分を多めに定めたのであると考えられます。
なお、4号は、子、直系尊属、兄弟姉妹、が複数いるときは相続分は均等となること、ただし、父母の片方だけが共通の兄弟姉妹は父母とも同じである兄弟姉妹の半分であること、を定めています。これは、いわゆる半血兄弟の問題であり、非嫡出子の話とは異なります。誤解されることも多いのですが、異なる話であり、混同しないように注意が必要です。
遺産分割の協議をするときには、まずは、これらの規定に従って、各相続人の法定相続分を確定することが必要です。そのためには、戸籍謄本を被相続人の出生から死亡まで取得し、親族関係を明らかにする必要があります。
こうして、法定相続分を明らかにしたとして、そのままの相続分で決まるとは限りません。次に、特別受益や寄与分の主張がある場合は、それについて検討する必要があります。
寄与分とは?
寄与分については、民法904条の2に定められており、「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるとき」に認められます。すなわち、何らかの方法で被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした場合に認められるものであり、典型的には、被相続人の介護をした、被相続人の事業に協力した、などが挙げられます。
寄与分がある場合の効果については、904条2に「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」と定められています。
すなわち、寄与分に相当する額は遺産の額から差し引いて計算し、残りを法定相続分で分け、寄与分に相当する分は寄与した相続人の相続分に足すことになります。
例えば、遺産が5000万円あったとして、相続人が被相続人の配偶者と子A、子Bだったとします。そのうち、子Aが1000万円の寄与分を持つとすれば、4000万円を法定相続分で分けて、配偶者の相続分は2000万円、子Bは1000万円、ですが、子Aの相続分は、4000万円から算出した相続分1000万円に寄与分の1000万円を足して2000万円となります。
ここで、重要なのは、「特別の寄与」が必要ということです。すなわち、「面倒を見た」といっても扶養義務の範囲内であるとされると、寄与分は認められません。例えば、月々仕送りをしていても、親子の扶養の範囲だとされると、寄与分にはならないのです。具体的にいくら以上であれば寄与分と言えるかは明確ではありませんが、少額だと扶養の範囲内と言われる可能性が高いといえるでしょう。
その他、介護に関しても、退職して介護に専念したという場合は認められる可能性が高まりますが、被相続人にそれが必要だったかも重要になります。もし、当該相続人が介護をしなければ代わりにヘルパーさんに頼まないといけなかったとすれば、そのヘルパーさんへの報酬の分を支払わずに済んだことで遺産の維持に貢献したと言えます。
このように、何をもって特別の寄与というかということがまず問題になり、次に特別の寄与があったとしてそれは金額でいくらと評価されるべきかということが問題となります。
特別受益とは?
特別受益については民法903条が定めています。すなわち、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるとき」には、特別受益とされます。簡単に言うと、相続人が遺贈や生前贈与を受けていた場合には、当該相続人については特別受益があったとされるわけです。生活費の他、不動産の購入資金や、大学の学費なども特別受益とされることがあります。もっとも、何が特別受益になるかも、事情によって異なり、個別の検討が必要です。例えば、生活費の援助についても不要の範囲内だと特別受益に当たる贈与とはされず、また、学費についても他の相続人との均衡が重視されます。
ある遺贈や贈与が特別受益とされると、その額は実際に存在する遺産に足して、遺産の額を算出し、それを元に相続分を計算します。そして、特別受益がある相続人は、その分はすでに相続したとして計算するわけです。そのことを定めたのが903条1項で、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」としています。
例えば、遺産が9000万円あったとして、特別受益が1000万円あれば、遺産は1億円として計算するわけです。もし、法定相続人が配偶者と子2名だとして、特別受益は子Aにだけあるとします。すると、配偶者の相続分は5000万円、子Bは2500万円、子Aは2500万円から1000万円を差し引いて1500万円、となります。このように、特別受益がある相続人は先にもらったとして計算するわけです。
なお、903条第2項は、「遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。」としていますが、これはすなわち、特別受益がある人について具体的な相続分を計算したところ、特別受益の額と同じか、特別受益のほうが多くなった場合には、相続はできない、ということです。もっとも、特別受益を計算したところ具体的相続分がマイナスになったとしても、返還する必要はありません。(遺留分を侵害している場合に遺留分侵害額請求を受けた場合は、侵害している分の金銭を支払う必要があります)
また、重要なのが、「持ち戻し免除の意思表示」です。すなわち、903条3項は、「 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。」としており、被相続人が生前に、「この贈与については戻して計算しなくて良い」ということを示していたり、遺言書でそのように述べていた場合には、特別受益の分を戻して計算する必要はありません。つまり、贈与を受けていたとしてもそのままもらってよく、相続についてはそれを考慮しないで改めて受けることができるということです。この「持ち戻し免除の意思表示」は黙示でも良いこととされており、その有無が問題となることは珍しくありません。
まとめ
以上をまとめると、具体的相続分を決めるには、遺産の額に特別受益の額を足し、寄与分の額を差し引いたものを遺産額として、それを元に法定相続分で各相続人の相続額を計算し、その上でその相続人の寄与分を足し、特別受益分を差し引く、という作業が必要になります。ただし、特別受益は持ち戻し免除の意思表示がされていれば考慮しなくて良いこととなります。
このように書くと簡単そうですが、実際には寄与分や特別受益の有無や評価を巡って揉めることも多々あります。