遺産分割を急ぐことが望ましい場合(寄与分・特別受益の関係)
1.遺産分割に期限はあるか?
人が亡くなり、その方に相続人が複数いる場合、遺産分割をしないと遺産は共有・準共有のままとなり、管理や処分等に制約があります。例えば、土地を相続した場合、共有のままだと売却する場合に相続人全員の合意が必要となります。不動産の利用方法の変更等にも一定の制約があります。そこで、そのような不便を解消するために、遺産を分割して、相続人の1名が単独所有とすることが一般的です。このように相続人間で遺産を分けることを遺産分割といいます。
では、このような遺産分割には期限はあるのでしょうか? 実のところ、何年以内にしないとできなくなるというような厳密な意味での期限はありません。「亡くなってから10か月」という期限を聞いたことがある方もおられるかもしれませんが、これは相続税の申告期限で、必ずそれまでに分割しないといけないわけではありません。
したがって、従来は、遺産分割の期限はない、といって問題なかったと思います。ただ、今回の法改正で、少し事情が変わったところがあります。
2.令和5年4月1日施行の改正法では
令和5年4月1日の改正法でも、厳密な期限はありません。しかし、大きな変更がありました。それは、寄与分と特別受益の主張に期限ができたことです。すなわち、従来は、被相続人が亡くなって何年たってから遺産分割を行う場合でも、寄与分や特別受益の主張をすることができました。しかし、改正法では、被相続人が亡くなってから10年を経過すると寄与分や特別受益の主張ができないこととされました。
なお、10年経過する前に家庭裁判所に調停や審判を申し立てていた場合は、例外的に主張することはできます。
また、10年経つ直前の6か月間に遺産分割を請求できないやむを得ない事情があった場合は、その事情がなくなってから6か月以内に調停や審判を申し立てれば同様に例外となります。ただ、この「やむを得ない事情」と認められるのは、かなり例外的な場合に限られると思われます。
3.改正前に生じた相続についてはどうなるか?
改正前に亡くなった方の相続についてはどうなるのでしょうか? 実は経過措置が定められており、適用はされるものの、相続開始の時から10年または改正法の施行の時から5年のいずれか遅い時までは寄与分や特別受益の主張が可能となっています。したがって、改正前に被相続人がなくなっていた場合、早いケースだと改正法施行から5年の時点で寄与分や特別受益の主張ができなくなるわけです。改正法施行時点ですでに被相続人が亡くなってから5年以上たっていれば、改正から5年、が後から到来するので、この時点で期限になってしまいます。
このように、改正前に被相続人が亡くなっている場合にも適用される点は要注意です。
4.こういう場合は10年以内に遺産分割をした方が良い
自身の寄与分や他の相続人の特別受益を主張して法定相続分より有利な具体的相続分を主張したい場合には、期限までに遺産分割をした方が良いでしょう。なぜなら、期限を過ぎると主張できなくなってしまうからです。
なお、口頭や書面で10年以内に主張したとしても、そのまま決まらずに期限を過ぎてしまうと結局主張できなくなってしまうので、交渉でまとまらない場合は、期限までに家庭裁判所に遺産分割の調停か裁判を申し立てる必要があります。
例えば、上記3の通り、改正前の相続(改正前に被相続人が亡くなっていた場合のこと)にも適用されるので、かなり昔から分割を行わないままになっている場合で、自分が被相続人の介護をしていたり事業に協力したりしていたから寄与分がある、と主張したい場合は、数十年前に他の被相続人が学費や生活費の援助を受けたから特別受益として勘案されるべき、というように、いつかは主張したいけれども分割しないままになって忘れている場合は、要注意です。
もちろん、これは一例ですが、寄与分、特別受益の主張には期間の制限ができたこと、改正前に被相続人が亡くなっていた場合にも適用されること、は事実なので、期間の経過でご自身が不利にならないように、注意する必要がありまず。とはいえ、寄与分や特別受益については、専門的見地からの検討が望ましいので、不安に思ったらまずは弁護士にご相談ください。
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