【コラム】不当利得か、特別受益か
よく、被相続人(亡くなった方)にはもっと多くの預貯金があったはずなのに少ししか残っていないのはおかしい、これは同居していた息子/娘が使ってしまったか、自分の口座に移したに違いない、という主張を聞きます。このような場合、これを返してもらって遺産分割の対象とすることはできるでしょうか?
実のところ、被相続人が納得して渡していたか無断で出金ないし送金されたかにより異なります。
被相続人が納得していた場合は、民法上は贈与となり、息子/娘が受けとったこと自体は法律上の原因がある(簡単に言えばそれ自体は民法上問題がない)ことになります。
この場合、その息子/娘だけが先に遺産をもらったのと同じなので、特別受益として遺産分割の際に考慮するのが基本です。つまり、その分はまだ遺産として存在し、ただ、その中からその相続人はすでにその額をもらったとして計算するわけです。場合によっては、すでにもらっているがために相続分がゼロになることもあります。
ただ、持ち戻し免除、といって、仮に、被相続人が戻さなくても良いという意思を示していたことが認定されれば、その分の考慮もされずに、もらったまま、ということになります。また、受け取ったのが相続人ではない場合には原則として特別受益は適用されません(受け取ったのが相続人の家族の場合で相続人自身が贈与を受けたのと同視できるような場合には適用される可能性があります)。
一方、被相続人に無断で引き出しや送金がされていた場合には、自分宛てに出金や送金をして金銭を得た相続人は、民法上の原因がなく不当に利得を得たことになります。
それゆえ、不当利得返還請求ができます。ただ、この場合、それで損害を受けたのは被相続人ですが、被相続人はもう亡くなっているため、権利は相続人が法定相続分に応じて取得します。不当利得返還請求権は可分債権と考えられるからです。そうすると、相続人は自分の法定相続分に当たる分だけを行使できることになります。例えば1000万円が不正に引き出されて相続人Aの口座に入金されていた場合、相続人Bは自身の法定相続分に対応する部分だけを行使できることになり、もし被相続人に死亡時点で配偶者がおらず子はA、B、C、D,の四人の場合、Bは自分の法定相続分である4分の1ということで、250万円の返還をAに対して請求できます。(CとDが同じ請求をするかは、C,D,それぞれの意向によります)
このように、同居親族が使ってしまったといっても、被相続人がそれを認めていたか、無断で行われたか、で結果は変わってきます。
このような問題についても、まずは弁護士にご相談ください。