【コラム】遺言執行者と利益相反
遺言を弁護士に依頼して作成する場合に、弁護士を遺言執行者にすることがよくあります。
遺言執行者を指定しておけば、預貯金の分割や登記の変更がスムーズに進むことが期待されるため、遺言執行者を指定しておくことは望ましいことであり、また、法律の専門家である弁護士を指定するのは自然です。もし、執行者を指定しておかないと、執行者が必要になった時に新たに家庭裁判所に選任申立てをしないといけないので、遺言書で指定しておくことは手間を省くためにも合理的だと思います。
ただし、気を付けないといけないのは利益相反の問題です。すなわち、遺言書があったとしても相続人間の衝突を完全に防ぐことができるとは限らないのですが(例えば、遺留分減殺請求が行われる場合)、遺言執行者はすべての相続人の共通の利益のために業務を行うことが求められているため、相続人の一人のために代理人になることは利益相反になると考えられています。したがって、弁護士が遺言執行者になると、相続人の一人から他の相続人とのトラブルの解決のために代理人に選任したいといわれても応じることはできません。これについては、仮に遺言執行者になった弁護士が途中で辞任した場合や、執行が終わった後も同様だという見解が有力です。
そうすると、遺言者がある特定の相続人に遺産の大部分を相続させる遺言をしたとして、その遺言執行者に指定された弁護士は、その相続人から他の相続人との問題について相談を受けても応じられないと考えられます。例えば、事業家が自身の資産の大半を長男に相続させる内容の遺言を書いた場合で、顧問弁護士を遺言執行者に指定したとします。その事業家ご自身はもし長男が他の相続人と揉めても自分の顧問弁護士が今度は長男から依頼を受けて対処してくれるだろうと期待しているかもしれません。でも、この場合、当該顧問弁護士は遺言執行者であるがゆえにその相続に関する紛争に限っては、上記長男の依頼は受けられないと考えられます。
遺言執行者と利益相反の問題は議論があるところではありますが、このような問題も起きうるので、例えば、弁護士ではなく相続人の一人を遺言執行者にして置き、弁護士は相続人の一人の代理人になれるようにしておく、という方法も考えられます。
このような問題が生じにくいケースでは、弁護士を遺言執行者に指定しておけば、相続発生後に速やかに手続きが終わるという面でメリットがありますが、相続人間のトラブルが予想される場合には上記のような問題もあります。