【コラム】遺言書に納得がいかないとき
遺言書が出てきたとして、内容に納得がいかない場合があると思います。その場合、「遺言書がある以上、従うしかない」のでしょうか? 実は、そうとも限りません。
1、遺言書が有効かどうか
遺言書が物理的に存在したとして、それが法律的に有効かどうかは、検討が必要です。遺言書が無効になるパターンは以下のような場合が考えられます。
・遺言書が形式要件を満たしていない場合
公正証書遺言の場合は、形式を満たしていないということは考えにくいです。なぜなら、公証人が作成手続きに関与するからです。しかし、自筆証書遺言の場合は遺言者が自ら書くため、知識の不足やミスで要件を満たしていないことがあります。自分で書く必要がありワープロ打ちは認められない(財産目録については改正法ではワープロ打ちも可能になりましたが、各ページに署名、押印が必要)、作成年月日を書く必要がある、印鑑を押さなくてはいけない、など、要件がいくつもあり、欠けていると無効になってしまいます。自筆証書遺言が出てきた場合、要件に欠けているところがないか、確認する必要があります。
・偽造の場合
自筆証書遺言の場合、そもそも本人ではなく他人が本人を装って書いた場合もあります。これは有印私文書偽造という犯罪に当たりますが、民事上は、遺言が無効になります。この場合、筆跡鑑定などで立証することになります。
・遺言能力が欠けていた場合
遺言者に遺言能力が欠けていた場合も、無効になります。つまり、遺言をした人がその時点で認知症などで遺言を行う能力がなかったとされると遺言書は無効になります。ただ、認知症と診断されていた場合に必ず遺言能力が無効になるというわけではなく、どの程度判断力が残されていたかによります。その判断には、案件により、カルテなどから判断される遺言者の精神状態の他、遺言の内容の複雑さ、内容の不自然さの有無、遺言が書かれた経緯、など様々な要素が考慮されます。
なお、公正証書遺言の場合には、公証人が関与していて遺言者と面談し遺言能力についても判断しているはずなので、自筆証書遺言と比べて遺言能力が問題になるケースは比較的少ないと考えられます。しかし、実際には公証人による確認が必ずしも十分とは言えず、訴訟で無効とされたケースもあります。
・遺言が無効だと主張するには
遺言の無効を主張する(確定させる)ためには、遺言無効確認訴訟という方法をとる必要があります。もっとも、他の相続人が全員無効であることを認めて遺言の無効を前提とした遺産分割協議に同意してくれるのであれば、原則として訴訟をする必要はありませんが(ただし、遺言執行者の存在する場合や、受遺者がいる場合に注意が必要)、他の相続人が遺言書は有効だと主張して遺言通りの分割を主張する場合等には、遺言無効確認訴訟を起こして遺言の無効を裁判所に認めてもらうことが必要です。
なお、自筆証書遺言(改正法における遺言書保管制度を使う場合を除く)は必ず家庭裁判所における検認が必要ですが、検認は有効性を確認するものではなく、どのような遺言書があったかを確認するためのもので、遺言の無効を法的に確定するためには上記のように訴訟が必要です。
遺言が無効であるとする判決が確定すれば、遺言はないのと同じことになるので、後は、遺産分割協議をすれば良いことになります。
2 遺留分減殺請求/遺留分侵害額請求
遺言が有効であるとしても、それによって遺留分を侵害された者は遺留分侵害額請求を行うことで自己の遺留分に関する金額を侵害者から受け取ることができます。遺留分があるのは、「兄弟姉妹(及びその代襲相続人)以外」の相続人です。つまり、配偶者、子、(相続人になる場合の)親、等に遺留分があることになります。遺留分は原則は法定相続分の2分の1ですが、直系尊属(親など)だけが相続人の場合は法定相続分の3分の1とされています。遺留分権者は自己の遺留分が侵害された場合に、期限(時効、除斥期間)が経過する前に、遺留分侵害額請求を行うことができます。
この制度は改正前は遺留分減殺請求と呼ばれ、当時の制度では遺留分減殺請求を行うと同時に様々な遺産について遺留分の割合に応じた共有状態が生じるというものでした。その結果、改めて単独所有にするためには協議が必要であり、手間のかかる手続きでした。その点、改正法では、侵害された金額の請求(金銭債権)とされたため、手続きはわかりやすくなりました。
なお、改正法でも、「相続の発生と遺留分が侵害されたことを知ってから1年」という時効と、「相続から10年」という除斥期間のいずれか早く到来する方が経過すると請求できません。ほとんどの場合は、亡くなってあまり経たないうちに相続と遺言書の内容を知るでしょうから、時効の方が早く到来するでしょう。
このように期間制限が厳しいため、「遺言書で遺留分を侵害されたかも?」と思ったら、すぐに弁護士に相談すべきです。
3、弁護士にご相談を
遺言の有効性や、遺留分を巡る問題は、紛争性のある法律問題であり、専門性の高い問題でもあるので、法律の専門家である弁護士への相談が望ましいと思います。また、弁護士であれば、相談に応えるのみならず、代理人として他の相続人と交渉したり、遺言無効確認訴訟や遺留分減殺請求訴訟の代理人となることができます。
これらの問題は、速やかな対応が必要であるため、悩まれている方は、ぜひ、速やかなご相談をお勧めします。