資産が特定の相続人に使われた場合・・被相続人の承諾があったかどうかによる違い
1,問題
被相続人の資産が特定の相続人によって使われたという場合、被相続人の承諾があったかどうかで、議論は大きく変わってきます。すなわち、被相続人が自らの意思で特定の相続人に贈与したのであれば特別受益(民法903条)の問題になりますが、相続人が無断で持ち出したのであれば、不当利得返還請求(民法703条)ないし不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)の話になります。
2,被相続人の承諾があった場合
被相続人の承諾に基づいて特定の相続人が被相続人の資産を用いた場合、それ自体は適法な行為であり、基本的に、贈与が行われたと解されます。被相続人が積極的に贈与した場合はもちろん、相続人側が提案して被相続人が承諾した場合も同様です。この場合、他の相続人は遺産分割の際に特別受益を主張することが考えられます。すなわち、特定の相続人が贈与相当分を先にもらったとして計算することを主張するわけです。この場合、特別受益の要件に当てはまるかどうか、と、持ち戻し免除の意思表示がないかが問題となります。
なお、相続人が預貯金を引き出したけれども被相続人のために用いた場合は、贈与は成立せず、特別受益の問題にもなりません。例えば、被相続人が高齢のために体力が低下して自分で買い物に行けなかったので、同居している子に銀行のキャッシュカードを渡してお金をおろして日常生活に必要なものを買ってきてもらっていた場合、確かに実際にお金を引き出したのは子ですが、親の意思で親のために引き出しており、使者として行動しただけなので、特別受益にはなりません。
一方、被相続人に頼んでお金をもらっていたり、車を買ってもらったりしていた場合には、特別受益が成立する可能性があります。
特別受益の主張は、遺産分割の交渉や調停・審判の中で行なえばよく、すなわち、遺産分割の手続きにおいて処理すべき問題ということになります。
3,被相続人に無断で資産が使われた場合
一方、被相続人に無断で資産を使っていたという場合は、何ら法的な権利なく利得を得たことになるので、不当利得返還請求の対象となります。もっとも、損失を受けたのは被相続人ですから、本来、被相続人が行使すべきものですが、死亡後は、各相続人が法定相続分に従ってその権利を相続します。なお、不当利得返還請求の時効は改正前民法適用の場合は10年ですが、改正後の民法適用の場合は権利を行使できることを知ってから5年、権利が発生してから10年、のいずれかにかかると時効になってしまいます。
また、不法行為による損害賠償請求という構成も可能だと解されます。この場合は、被害と誰によるものかを知ってから3年で時効となり、また、前記を満たさなくても、不法行為から20年経てば時効になります。
なお、いずれの法律構成をとるにせよ、無断使用の場合は遺産分割の審判の対象とはならず、法的手段で解決するのであれば、民事訴訟で不当利得返還請求ないし損害賠償請求をすることが必要となります。ただ、任意交渉の場合に遺産分割の話の中で行うことは問題なく、家庭裁判所でも調停であれば遺産分割の話の際にそれも含めて協議するということは当事者が反対しなければ可能です。
4,早めに弁護士にご相談を
以上のように、特定の相続人に遺産となるべき資産を使われたと言っても、被相続人の合意の有無で法律構成が異なり、それゆえ、手続きも違ってきます。正しい方法で主張しないと、本来主張できるはずの権利も実現が難しくなってしまいます。
また、不当利得返還請求や損害賠償請求は時効もある話であり、解決を遅らせることは思わぬ結果につながりかねません。
特定の相続人による被相続人の資産の不適切な使用を発見したときは、まずは、弁護士にご相談ください。当事務所は、相続の相談は初回1時間無料となっておりますので、ご気楽にご相談ください。お電話か電子メールでご予約の上、立川か所沢の当事務所までご来訪をお願いします。