残業代請求を受けた方へ
会社を経営していたり個人事業をしてアルバイトを雇っていたりして残業代を請求された場合どうすればよいでしょうか?
まず、労働基準法に基づくと残業代(時間外手当)請求は支払わないといけないのが原則です。
したがって、無視するのは避けるべきです。無視していると、訴訟を起こされたり、労働基準監督署に通報される等、次の措置を取られてしまい、より重大な問題になりかねません。
経営側は、円満退職したと認識していても労働側は残業代未払いに強い不満を持っていて退職後に請求してくるケースは珍しくなく、対応を誤ると会社に大きな損失を生みかねません。
ただ、どの事案でも請求が正当とは限らず、例えば、管理監督者など例外もあるので、事案によってはその点の検討がまず必要です。
*ただし、社内的には管理職であっても労働基準法上の管理監督者と認められるケースは少ないですが。
また、残業代などの賃金の支払いについては本来の支払い日から2年で時効になります(令和2年2月時点の法制度。改正の議論があるので要注意です)ので、時効の場合は時効援用をすることで結果として支払わないで済むことになります。もっとも、時効までに提訴されると時効は中断しますし、内容証明郵便でも催告として6カ月完成が伸びて、その間に提訴されればやはり時効は中断します。(他にも時効中断事由はあります)
そもそも、賃金支払いは労働基準法上、違反に対して罰則もあり、決して軽く考えてはいけません。したがって、時効を期待して放置することはお勧めしません。ただ、すでに時効になっている分について時効を援用するのは一般的な対応です。
もっとも、支払うべきなのは、当然ながら、正当な請求の場合です。それゆえ、事案に応じて事実関係を精査することが必要です。まず、証拠となるべき資料をよく確認して、相手方からきている請求のうちすべてが正当なのか、それとも一部だけが妥当なのか、をよく検討するべきだと考えられます。なぜなら、請求する側は証拠からはっきりしない部分も記憶に基づくなどしてまずは請求してみるという方法で請求をしてきている場合が珍しくないからです。そのような請求に対しては、資料を精査して、どの部分が正当化をよく見極めることが必要です。
なお、計算の際には時間外や深夜、休日出勤の割り増しを忘れないようにしましょう。
そうして、正当だと判断した額が算出できれば、その額の支払いを労働者に提示します。そこで見解に食い違いがある場合は、話し合いで和解できれば良いですが、和解できないと労働審判や裁判を起こされることがあります。その場合も、速やかに対応する必要があります。無視していると労働審判では不利な審判を下されかねないし、訴訟は放置すれば敗訴する仕組みになっています。(民事の裁判は当事者の一方が欠席していても判決は出てしまいます)
それゆえ、労働審判や訴訟を起こされたら、速やかに弁護士にご相談ください。特に労働審判は第1回期日までに充実した反論の書面を出さないといけないので、直前だと対応できない場合もあり、裁判所から呼び出し状が届いたら、すぐに弁護士にご相談することをお勧めします。
労働審判は基本的に裁判所での話し合いで合意を目指すものですが、3回目までに合意に至らないと裁判所が審判をします。その場合、2週間以内に異議を申し立てれば通常の訴訟に移行します。
また、訴訟の場合でも途中で和解ができることも多いです。すでに発生している債務なので本来一括で支払わないといけませんが、和解だと双方で合意ができれば、分割で支払うこともできます。
労働審判や訴訟まで進んでしまうデメリットとしては、対処に手間がかかること、労働側もそれだけ時間と費用をかけて手続きをしているため話し合いの段階より強硬になりかねないこと、などが挙げられます。それゆえ、できれば、裁判所に持ち込まれる前に合意により解決できるのが望ましいといえます。
また、残業代請求をしてくるのは退職後の場合が多いのですが、その場合でも他の従業員に関して日々未払いが発生しているような場合は、速やかに社内の体制を改めて支払いをするようにすべきです。同時に、無駄な残業が発生していないか、点検をして、必要に応じて残業の抑制を図れるとなお良いでしょう。
残業代請求への対応は、対応を誤ると経営に大きな影響を与える恐れがあります。残業代の請求を受けたときは、知識が不十分な状態で対処をするのはリスクがあるので、速やかに弁護士にご相談ください。