同業他社への転職・独立を考えている方へ(競業避止義務について)
長年勤めた会社を退職したいが、その会社で培ったノウハウを、次の会社や独立に際して活かしたい。そのように考えている方は多いのではないでしょうか。
しかし、その際には「競業避止義務」に注意が必要です。
以下ではこの点について説明します。
1.競業避止義務とは
従業員は、会社との間で雇用契約を締結し、賃金をもらう代わりに、会社のために勤務しています。その関係から、従業員には、会社との関係で競業避止義務(競業している同業他社で勤務したり自分で競合する副業を立ち上げない義務)があるものと考えられます。
そのため、原則としては、会社との間で雇用契約が存続している限りで、発生している義務ですが、就業規則や、誓約書などにおいて、退職後も競業避止義務が課されているケースはあります。
2.競業避止義務に反して、同業他社への転職・独立をした場合はどうなるのか
転職・独立によって、会社に損害が生じた場合には、損害賠償請求がされるほか、業務の差し止めを請求される可能性があります。
この場合には、
- 就業規則等が有効といえるか
- 元従業員が行っている行為が就業規則等に違反しているか
- 元従業員の行為によって会社に損害が生じているか
- (差止請求の場合)事後的な損害賠償では救済として足りず、事前の差止をする必要があるか、
といった事情について審理がされることとなります。
就業規則等の競業避止義務の規定が有効かどうかは、職業選択の自由(憲法22条)との関係で論じられますが、時間的、場所的な制約の程度が判断に大きく影響すると考えられます。すなわち、期間が短く、場所も同一市内など限定されていれば有効となる可能性が比較的高くなり、逆に期間が長かったり範囲が無制限だったりすると無効とされる可能性が高まるといわれています。
特に、退職後の競業避止義務については、職業選択の自由を制約するものであることから、制限的に解釈されるほか、差止請求は、その効果の重大性から、より厳しく判断される傾向にあります。
ただし、地理的範囲の限定がなくても元の企業が全国的に営業している場合は有効性が認められる場合がある(東京地判平成19年4月24日「ヤマダ電気事件」)、など、必ずしも労働者側に有利な判断がされるとは限らないことに注意が必要です。地理的な範囲に関しては、その対象地域で競業の制限を行うことが合理的であるかどうか、が重視される傾向があると考えられます。
独立するときに従来行なってきたのと同じ業種なら経験を生かせるというのは多くの人が考えることですが、このように競業避止義務に注意しないと従来の勤め先とトラブルになり損害賠償請求をされるなどの問題が生じかねません。
勤め先の就業規則に競業避止義務の規定があったり雇用契約書等で競業避止義務が定められている場合で、同業種や類似業種での独立を計画している時には、できれば独立をする前に、まずは弁護士にご相談ください。また、転職後や独立後に、元の勤め先から内容証明郵便などで警告が届いたという場合にも、弁護士への相談をお勧めします。さらに、すでに競業避止義務違反で訴えられたという場合には、速やかに対応することが必要なので、直ちにご相談頂ければ、と思います。当事務所では競業避止義務違反に関する案件も扱ったことがありますので、安心してご相談ください。