遺言能力

遺言能力とは?

遺言能力とは、文字通り遺言をする能力のことを言います。法律上有効に遺言を行う能力、というほうがより的確かもしれません。

つまり、遺言を書いても、その人が遺言能力を失っていると、有効な遺言とは認められないのです。

遺言能力の有無が問題になるのは?

これが具体的に問題になるのは、遺言者が死亡して遺言が発見されたときです。遺言が有効であれば、原則としてその通りに遺産の分割を行うことになりますが、無効であれば遺言はなかったものとして扱わなくてはいけません。無効になる原因の一つとして、遺言能力の欠如というのがあるのです。

遺言能力がなかったとされる場合としては、認知症などで判断力が低下していた場合というのが典型です(ただし、認知症なら直ちに遺言能力を失うとは言えず、程度によると考えられます)。そういう状態でも、周りが誘導すれば形式上自筆証書遺言を書くかもしれませんが、本人に遺言能力がない以上は無効ということになります。また、公正証書遺言の場合は公証人が作成に関与するため無効となるリスクは比較的低いのですが、しかし、公証人も必ずしも認知能力を判断するプロというわけでもないので、認知症などで認知能力が低下して遺言能力を欠くに至っていた場合でも見抜けないこともあります。そういう場合は、事後的に遺言が無効となるリスクはあり、実際、裁判例を見ても公正証書遺言が無効になった例はいくつもあります。

遺言の効力を争うには?

 遺言の有効性に疑いがある場合、地方裁判所に遺言無効確認訴訟を起こすという方法で争うことができます(ただ、まず、家庭裁判所で調停を行うのが原則です)。また、遺言が執行される恐れがある場合は、遺言執行者職務停止の申し立てもしたほうがよいでしょう。

どのようにして判断がされるか?

 なお、遺言能力があったかどうかが争われる時点では本人はすでに亡くなっているため、直接確認することはできません。そこで、当時のカルテを医療機関に出してもらって症状を確認するという方法が良く用いられます。また、内容が相続人らとの生前の関係や被相続人の生前の言動等に照らして不合理であると考えられる場合には周りが誘導したという推測が働き、無効となる可能性は高まると考えられてます。例えば、ずっと長男と一緒に店をやってきて後は長男に継がせると周囲にも言っていたのに亡くなってから遺言が出てきて遺産は全部次男に相続させるという意味のことが書いてあれば、そのことは遺言を無効とする方向に働くでしょう。もちろん、遺言者の当時の認知能力に全く問題がなかったり、遺言書の方が真意を表していると考えられる事情があればまた別ですが、微妙なケースにはこのような場合には裁判所が遺言書を無効と判断する方向に働くということです。また、認知症で判断能力が低下していたのに複雑な遺言書が残されていた、という場合も、有効性を否定する方向に働く可能性があります。

遺言は早めに書くことが望ましい

 このように、せっかく遺言をしても、その時点で認知症などで認知能力が低下していると争われる恐れがあり、そうなると、有効とされても解決までに余分な手間がかかったことになってしまうし、無効になってしまうと遺言をした意味がなかったことになります。それゆえ、遺言を作成する場合は、認知症になるリスクも考えて、できるだけ早めに行うことが望ましいといえます。(その後に修正したいところが出てきたら、書き直すことは可能です)

 なお、遺言が無効となる理由は遺言能力の欠如だけではなく、形式面の違反などもありますので、注意が必要です。特に自筆証書遺言が形式違反で無効となるケースが昔から珍しくないので、自筆証書で書く場合は充分な注意が必要です。(可能であれば公正証書遺言をお勧めします)

どのように書いてよいかわからない場合は弁護士にご相談を

 遺言作成は簡単なようで、実は複雑な問題が絡むことも珍しくありません。遺留分、事業用資産、配偶者居住権、相続前の資産の変動、その他考慮しないといけないことがたくさんあります。不動産などの資産については記載方法も重要で、特定方法に問題があるなど記載が不適切だと登記に支障が生じたり、相続人間の紛争につながる場合もあります。このように、よく考えずに作成するとかえってトラブルが生じることも珍しくありません。したがって、遺言書を書きたい場合は、まずは弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

 

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