遺言無効確認訴訟について
遺言無効確認訴訟とは何か?
遺言書の有効性に疑問がある場合、原則として訴訟で有効性についての判断を求めて、その判断が確定してから、次の段階へ進むことになります。すなわち、遺言が有効であると判断されれば遺言に従った内容で遺産を分割し、遺言が無効であると判断されれば、改めて交渉や調停などで遺産分割を行うこととなります。
遺言無効確認訴訟は、遺言が無効であると主張する当事者が原告となり、他の相続人など遺言の効力を主張する人を被告として提訴します。固有必要的共同訴訟(関係者全員を相手にしないといけない訴訟)ではないとされており、必ずしも他のすべての相続人を相手に提訴する必要はありません。遺言が有効だと主張し遺言通りの相続や遺贈の効果を求めている人を被告として提訴すればよいと考えられています。
遺言が無効と判断されるかどうかの判断要素
A、 形式に関する無効原因
自筆証書遺言で日付が書かれていない(「4月吉日」のように不完全である)、本人の自筆ではない(他人が手を添えて書いた場合は程度によると考えられます)、印鑑が押されていない、など、要件を満たしていない場合は無効になります。
公正証書遺言では形式を満たしていないことが原因で無効になることは少ないですが、口述が適切にされていないと形式違反として無効になる場合があります。
B、遺言能力に関する無効原因
近年、自筆証書遺言、公正証書遺言を問わず、問題になることが多いのが、遺言がなされた当時、遺言者に遺言能力があったか否か、です。すなわち、遺言は遺言者が十分な判断力がある状態で作成される必要があり、これを遺言能力と言います。それゆえ、認知症により判断力が低下し内容を理解できない状態の時に作成された場合、遺言は無効になってしまいます。もっとも、認知症であれば必ず遺言能力がないというわけではなく、内容を理解したうえで遺言書を作成することができたのかどうか、が問題となります。
この場合、判断要素として用いられるのが、
- 遺言者自体の状態・・・カルテや診断書などにより判断。長谷川スケールによる認知症テストもよく参考とされる。
- 遺言の内容が難解かどうか・・・通常は遺言が複雑で難解だという理由で無効になることはありません。ただ、遺言者の認知能力が低下していた場合、遺言書の内容が複雑で難解な場合には有効性が否定される方向で考慮される場合があります。すなわち、認知能力が低下していたのに複雑で難解な遺言を理解して自らの意思で書くとは考えにくい、という推論です。
- 内容の不自然さ・・・内容が不自然な場合は、有効性を否定する方向で考慮される場合があります。例えば、これまでずっと長男Aと暮らしてきて周囲にもAに感謝していると繰り返し話していたのに遺言では次男Bに全財産を相続させると書いてあった場合、遺言書の有効性を否定する方向に作用することがあります。
同様に、先に、全財産をAに相続させるという遺言があったのに、認知症発症後に作成した遺言では全財産をBに相続させると書いてあった場合、なぜ正反対の内容になったのか、疑問を持たれるでしょう。そのような場合、その2通の遺言書作成の間に遺言者の心境が変化したことについて合理的な理由があれば疑問は解消されますが、合理的な理由がない場合は、遺言書の有効性を否定する方向で考慮されうる事実と考えられます。 - 遺言書が作成された時点で遺言者が置かれていた環境(特に遺言で利益を得る人との関係で)・・・遺言が作成されたとき、遺言者がどのような環境に置かれていたかも判断の根拠となることがあります。すなわち、特定の相続人に有利な遺言があったとして、当該相続人と遺言者が二人きりで長時間接する機会が豊富にあれば、遺言能力がない状態の遺言者が当該相続人に誘導されて遺言書を作成したという推測に説得力が増します。
もっとも、同居していたり訪問でたびたび介護に訪れていたことが必ずしも遺言が当該相続人によって誘導されて作成されたという推測を補強するとは限らず、当該相続人が面倒をみていたから有利な遺言書を書いて遺産を残した、という見方もできます。したがって、この要素は状況に応じて、無効を主張する側に有利にも不利にも働きうるでしょう。
以上のように様々な要素を総合的に考慮して判断されますが、前提として、遺言者の認知能力が低下していたことが必要です。遺言者の認知能力の低下を証明できない限り、遺言内容が複雑であったり、遺言内容が以前と異なったり、特定の相続人に遺言者への接触の機会が多くあったからといっても、遺言能力を理由に遺言が無効となることは考えにくいです。そういう意味では、認知能力の低下がもっとも重要な要素であることは言うまでもないでしょう。
遺言が無効とされた場合
遺言が無効とされると、遺言がなかったのと同じことになります。したがって、遺産は共有状態のままになるので、遺産分割について協議を行い、まとまらなければ、調停、審判、と進むことで解決するという流れになります。
もちろん、交渉をする義務や調停・審判を申立てる義務はないので、そのまま何もしないこともできますが、そうすると、不動産や預貯金について法定相続分に基づく共有状態が続くことになるので、それらを活用することが難しくなってしまいます。
遺言の有効・無効を巡って争うくらい相続人間の関係が良くないのですから、そのまま共有にしておくことは一般に望ましくなく、現実的には、調停を申立てて、まとまらなければ審判による解決を求めることになるケースが多いと思います。
遺言が有効とされた場合
遺言が有効とされた場合は、遺言執行者がいれば執行者が内容を実現するための手続き(登記変更、名義変更など)を行います。
遺言で不利益を受ける側が対抗できる手段としては、遺留分侵害額請求(改正前は「遺留分減殺請求」)があります。もっとも、遺言に従った分割の効果を否定するわけではなく、侵害された遺留分に相当する金額を他の相続人等に請求する仕組みです。これは時効期間が短いので注意が必要です。すなわち、死亡及び遺留分が侵害された事実を知ったときから1年で時効にかかってしまい、また、10年という除斥期間もあります・それゆえ、死遺言無効確認訴訟を起こす場合も、予備的に遺留分侵害額請求をしておく方が良いと思います。
遺言が何か変だと思ったらまずはご相談を
上記のように、遺言内容の不自然さや変遷(以前の遺言書から合理的な理由なく内容が180度変わっているような場合)は、遺言者の精神状態と併せて遺言の有効性を否定する根拠となりえます。したがって、「遺言の内容がおかしい」「父がこんな遺言を書くはずがない」という直感が重要な意味を持つこともあります。遺言内容がおかしいと思ったら、まずはご相談ください。
相続に関する相談は、初回1時間まで無料とさせて頂いております。まずは、お電話か電子メールでご予約の上、当事務所までご来訪をお願いします。
ご依頼の場合の費用について
① 遺言無効確認訴訟の費用
遺言無効確認訴訟の費用は、着手金は、40万円(税込44万円)です。着手金は、通常、ご依頼から1週間ないし2週間程度の間にお振込みいただく形になっています。
成功報酬は、経済的利益の額により異なることになります。ここで、経済的利益とは、遺言の無効を求めている方からの依頼の場合、「遺言が無効になることで得ることになった遺産の額から、仮に遺言が有効だった場合に得られた額を差し引いた額」をさします。その額に、以下の割合をかけたものが、成功報酬となります。
成功報酬は、遺言無効についての争い(裁判など)が解決した時点で発生します。
経済的利益の額(獲得額) | 成功報酬 |
---|---|
300万円未満の場合 | 16%(税込17.6%) |
300万円~3000万円の部分 | 10%(税込11%) |
3000万円以上の部分 | 6%(税込6.6%) |
3億円以上の部分 | 4%(税込4.4%) |
② 遺産分割に関する費用
遺言無効が確定した場合には、遺産分割について具体的な交渉に入ることになります。交渉で解決せずに調停や審判に移行することも考えられます。この点は、最初から遺言がない場合と同じです。
遺産分割についても引き続きご依頼の場合、別途、弁護士費用がかかります。遺産分割については、着手金は30万円(税込み33万円)。成功報酬は経済的利益(ご依頼者様ご本人様が相続できた遺産の額)に対する比率で決まります。その他、期日が多い場合、審判に移行した場合、には以下の通り、追加報酬が発生します。
経済的利益の額 (ご依頼者様が相続できた遺産の価値) | 成功報酬 |
---|---|
1000万円未満の場合 | 獲得額の7%(税込7.7%) |
1000万円以上5000万未満の場合 | 70万円(税込77万) |
5000万円以上の場合 | 70万円(税込77万円) + 相続額のうち5000万を超える分の1%(税込1.1%) |
※調停の期日が合計で10回を超えた場合は、1回ごとに出廷日当3万円(税込3万3000円)を追加
※まず交渉する場合も同額で、その後調停に移行しても追加費用はありません。
※審判に移行した場合は、別途、審判着手金として20万円(税込22万円)追加。
これらの他、調査に必要な戸籍等の取り寄せにかかる手数料や裁判所の印紙代などの実費が発生します。
※費用は標準的なところであり、案件が複雑な場合等には異なる定めをさせていただく場合もあります。いずれにせよ、必ず契約書に報酬の額又は報酬の計算方法を明記いたします。