自分が全く遺産を相続できない遺言書が出てきたとき
1, 自分が全く相続できない遺言書が出てきて納得できない場合
あなたが法定相続人の地位にあったとして、しかし、あなたは全く相続できない内容の遺言書が出てきたとき、どうすればよいでしょうか? もし、それで納得できるなら何もしなくて良いですが、納得できない場合もあると思います。その場合、どのような方法が考えられるか、をここでは検討していきます。
2, 遺言書の成立に問題はないか?
① 遺言書の形式面について
遺言は要式行為です。すなわち、一定の要件を満たして作成されていないと、無効になってしまいます。自筆証書遺言の場合、遺言者自らが書いたこと(改正法では目録はワープロでも大丈夫ですが、それ以外は自筆で書かないといけません)、日付が入っていること、署名と押印があること、などです。それらの要件を満たしていないと、無効になります。
もっとも、公正証書遺言の場合は、形式面で無効になることは考えにくいです。
② 本人が作成したものか?
遺言が偽造される場合もあります。偽造とは、本人以外によって、本人が書いたかのように装って作成されることを言います。内容が不自然である、筆跡が異なる、当時本人は病気であり遺言書を書ける状態ではなかった、など様々な事実から遺言が偽造であることを立証できる場合があります。
③ 遺言能力はあったか
②とも関係しますが、遺言が作成された時点で遺言者に遺言能力がなければ、遺言は無効となります。遺言能力とは法律上遺言を書く能力があるかどうか、ということであり、言い換えれば、本人に充分な判断力があったかどうか、ということです。この遺言能力は自筆証書遺言の場合のみならず、公正証書遺言の場合にも問題になります。よく問題になるのが、認知症により判断力が低下していて遺言能力がなかったのではないか、という点です。遺言者が認知症検査を受けていればその結果は有力な証拠になりますが、それ以外にも、内容の不自然性や、その遺言で得をする人が遺言者をそそのかして書かせるチャンスがあったか、などの事実関係も立証材料となりえます。
3, 遺留分侵害額請求(旧遺留分減殺請求)
遺言が有効な場合でも、一定の範囲の相続人は、遺留分を主張して、遺産の一部に相当する金銭を求めることができます。すなわち、被相続人の配偶者、子及びその代襲相続人、親など直系尊属、が法定相続人であるとき、遺留分侵害額請求をすることができます。なお、兄弟姉妹やその代襲相続人は遺留分がありません。
遺留分は直系尊属だけが相続人の場合、法定相続人の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1となっています。したがって、もし、相続人が被相続人の子ら2名だけの場合、仮に子Aに遺産を全部相続させる内容の遺言があったとしても、子Bには法定相続分2分の1のさらに2分の1、すなわち4分の1の遺留分があることになります。ただ、遺留分について、自動的にもらえるわけではなく、時効になる前に遺留分侵害額請求、をする必要があり、かつ、その相手方に対して金銭を請求できるという形なので、遺産をそのままもらえるわけではなく(改正前だと遺産が遺留分の割合に応じて共有になると解されていました)、金銭を支払ってもらう形になります。
遺留分の金額を計算するためには、遺産の全体を明らかにし、不動産などは評価を行う必要があります。預貯金なども全部明らかにしてもらわないと、隠されたままのものがあるとその分金額が少なくなってしまうので注意が必要です。
一方、ご自身がすでに被相続人から援助等を受けていると、相手方からその分を考慮して計算すべきとの主張をされることがあり得ます。もし、それが相続発生前10年以内の特別受益に該当するのであれば、そのような計算になることはやむを得ないので、相続発生前10年以内の贈与等の場合は、特別受益に当たるかどうかをまず検討しておくと良いでしょう。
遺留分の請求は、必ず、相手方に対して通知をする必要があり、遺留分侵害額請求調停を申立てても、時効は止まらないので、注意が必要です。通知は、証拠が残るように、内容証明郵便で行いましょう。
遺留分侵害額請求は、まず相手方に遺留分侵害額請求をする旨の内容証明郵便を送り、交渉を行い、それでもうまくいかない場合に調停、調停でも合意できなければ訴訟、という流れになります。(調停前置なので、基本は訴訟の前に調停が必要です)
4, すぐ行動する必要性
遺留分侵害額請求は被相続人の死亡及び自己の遺留分が侵害されたことを知ってから1年以内に行わないと時効になってしまいます(知らなかったとしても死亡から10年経つと請求できなくなります)。それゆえ、迷っているうちに時間が経つと請求できなくなってしまうので、すぐに弁護士に相談することをお勧めします。